地球規模のプラスチック問題、その背景を探る。
今年6月、日清食品がカップヌードル容器を植物性プラスチックに変更するという記事が掲載されました。ユニクロやH&Mがレジ袋を紙製に変え有料化する。やスターバックスがストローを廃止するという記事もありました。
プラスチックへの認識
昨年より海洋汚染問題からマイクロプラスチックが世間を騒がせ話題となっていますが、急にプラスチックへの風当たりが変わったように感じている方も多いのではないでしょうか?エポックとなったのはテキサスA&M大学海洋調査チームがアップした亀を助けた動画ともいわれています。普段、何の気遣いもなく使うストローが思いもかけない場所で、思いもかけない事態を起こしていることに、無意識であることの罪悪感を感じてしまいました。
なぜ、ストローが廃止?
世界中でストローの使用禁止が起こっていることに「なぜストローなんかが規制されるの?、もっと効果的なものがあるでしょう?」と思っていた方々も多いかもしれませんが、ストローが刺さり悲痛な亀の顔を見ると納得できるかもしれません。この記事を書いている2019年10月初め、3,800万回に迫る再生がされていますから人々の関心の高さが伺われます。
弊社はプラスチック包装資材が主要商材の一つであり、プラスチックに関わる動向を見誤らないよう積極的な情報収集と必要な展開を図るべく注視していますが急激で、かつ様々な動きの背景を探ってみますと、世界規模の大きなうねり、変革期に突入していることが判ります。
いよいよ日本でも脱プラの動きが本格化か?
- チャイナショック
- 海洋汚染/マイクロプラスチック
- SDGs(持続可能な開発目標)
- ESG経営/投資
毎日のように関連記事が掲載され、それぞれ個別の事象として捉えた見方をしてしまいがちですが、しかし、こうして列挙すると、共通項がプラスチックであることに気づかされると思います。ESG経営/投資は、それほど耳慣れないワードかもしれませんが最近のプラスチック話題で最もキーとなるワードかもしれません。概要は後述しますがこのような状況を鑑みるとプラスチックを取り巻く環境は確実に、しかも急激に変化しています。
先日、就任直後の小泉進次郎新環境大臣が記者インタビューで”エスデージーズ”を連呼しマイクロプラスチック問題に言及していました。世界から出遅れていた日本のプラスチック問題に本腰を入れることを宣言した印象を受けました。
直近では廃プラと呼ばれるレジ袋やストロー、食器など一度使って捨てられるプラスチックへの規制が強化されています。想像の域を出ませんが、意図せず廃プラ以外の一般プラスチックへ自発的に波及、影響していく可能性は考えられます。プラスチック自体は優れた素材であることに間違いありませんが、3RとRenewableが強化されプロダクトデザインや素材の選択、表示などのルール化も大きく変わっていくかもしれません。
中国が廃棄プラスチックの受け入れ拒否
昨年、中国が廃棄プラスチックの受け入れを禁止し、世界中の廃プラ輸出国に衝撃を与えました。(チャイナショックと呼ばれ衝撃の大きさが伺えます)廃プラ排出各国は全面禁止となったことで、国内に大量にあふれる廃プラに大慌てとなっています。行き場を失ったこれら廃プラは、タイやベトナムなど東南アジアへ向かいましたが、各国とも禁輸を決めています。今年6月インドネシアはプラスチックごみのコンテナ5個をアメリカへ送り返したと発表し、断固としてゴミ捨て場にはならないと宣言しました。
中国は世界の廃プラおよそ700万トン/年を受け入れていましたが、禁輸となったことで零細業者含め4~5万社、40万人ほどが廃業となったともいわれています。禁輸は廃プラ処理における国内環境汚染対策や原油価格低下と作業コスト上昇などによる再利用化の優位性が無くなったためと考えられますが、一方で電力会社など中国大企業がリサイクル事業に乗り出し、不足する原料を求めて排出各国に進出し始めておりPET材などの廃プラは今後取合いになるかもしれません。リサイクルで発生する廃棄物は排出国に残し、きれいなリサイクル再生材を輸入する手法は、さすがの中国、先を見た見事な動きに見えます。
日本では今年5月に環境省が(中国の)輸入規制に係る廃棄プラスチックの保管状況の変化について、各自治体へアンケート調査した結果が報告されており、大都市を中心に30%を超える事業体が保管基準を超えた、あるいは保管量が増加したと回答しており、差し迫った問題となっていますが、181か国が加盟するバーゼル国際条約において廃プラが規制の対象となり、汚れた廃プラ、無選別の廃プラは2020年1月以降、実質輸出禁止が決定しました。増え続ける日本国内の廃プラの処理にあまり猶予は無いように見えます。
マイクロプラスチックによる環境破壊
昨年、11か国の国際ブランドPETボトル飲料水の大半からプラスチックが検出された旨のNY州立大学フリードニア校研究報告があり、続いてミネソタ大学研究グループからは世界13か国、水道水、食塩、米国産ビールからマイクロプラスチックを検出との記事がありました。人体への直接的な影響は不明ですがかなりショッキングな記事です。今年つい最近もロッキー山脈の雨からマイクロプラスチックが見つかった記事を見ました。マイクロプラスチック問題は科学雑誌PloS ONEに投稿された地球規模で拡大するプラスチック汚染により、様々なメディアや官公庁資料に取上げられ注目されましたのでご存知の方は多いのではないでしょうか?
首相経験者や元大統領をメンバーとする国際会議”インターアクション・カウンシル”でもプラスチック汚染に対し”プラスチック汚染と無関係な場所”AWAY”は地球のどこにもない”と危機感と警告、対応を迫っています。余談ですがこれら海洋汚染原のプラスチック廃棄物の9割は長江やインダス川、ナイル川、ガンジス川などの10の大河から運ばれていると、ドイツの研究チームが調査報告しています。わずか10の河川ですが多くの国々がまたがり、ゴミを川に捨てることが習慣化した国もあり、これらの根絶は容易ではない様が浮かびます。
プラスチックは安価なうえ軽量で様々な機能が付与され沢山の種類が開発され、他に無いとても便利な材料として大量に生産されていますが、そのことが大量の化石資源の消費によるCO2問題、河川や海洋、大気の汚染などを引き起こし環境破壊に繋がっていることはとても残念なことです。
2030年に向けた廃プラ規制強化
”SDGs”(持続可能な開発目標)の文言が特に最近、新聞やTVなどのメディアで目立つようになりました。SDGsは2015年、国連で採択された「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現の為、2030年を年限とする17の国際目標です。第14目標に”海の豊かさを守ろう”があります。”海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する”、”2025年までに海洋ゴミや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し大幅に削減する” とあります。
欧州連合(EU)はプラスチックリサイクルの経済性と品質向上、プラスチック廃棄物と海洋ゴミの削減循環経済への投資とイノベーション拡大、国際的アクション醸成をあげ、使い捨てプラの法的規制ほか、プラスチックに対し戦略的研究イノベーション、技術開発予算へ1億ユーロの追加投資などビジネスチャンスと捉えたプラスチック戦略を立てており、循環経済に関する投資ではプラリサイクル事業などにより20万人の新規効用が生まれるとの試算もあるようです。
また欧州委員会は、特定のプラスチック製品の環境への影響の低減指令(2018年10月)によりストローなど10品目でプラスチックの使用を禁じる法案を採択し、2030年までに容器包装廃棄物の75%をリサイクルする、分別回収された廃棄物の埋め立て処分の禁止など廃棄物法令の改正も行っています。
中国は廃プラ輸入禁止や新エネルギー自動車政策など実質的にSDGsの一部はどこよりも強力に押し進めている感触があり、ある日突然にプラスチックに関する規制強化や見直しがされる可能性はあるかもしれません。日本は環境省主導の”プラスチック・スマート”に示される自治体、企業はもちろん個人、消費者レベルでの取り組みが挙げられます。
基本原則は3R+Renewable(3R強化のほかプラスチック再生材やバイオプラへの取組み)。海洋プラスチック対策として”海洋プラスチックゼロエミッション”を目標としています。レジ袋の紙化や有償化、おにぎり袋の生分解性プラ化など身近な事例ではないでしょうか?プラスチック代替材の開発は活発化しており、既に上市されたものも多くありますが、今後さらに加速していくことが想定されます。
国際連合の投資家への働きかけ
説明するまでもなくESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、E:地球温暖化対策や生物多様性の保護、S:人権への対応や地域貢献活動、G:法令順守、社外取締役の独立性、情報開示などを意味し、国際連合が2006年、投資家がとるべき行動として責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を打ち出し、ESGの観点から投資するよう提唱したため、欧米の機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新しい評価項目として関心を集めるようになった。
従来の投資が売上高や利益など過去の実績を表す財務指標を重視したのに対し、ESG投資は環境、社会、企業統治を重視することが結局は企業の持続的成長や中長期的収益につながり、財務指標からはみえにくいリスクを排除できるとの発想に基づいている。(日本大百科全書より抜粋)企業の長期的な成長や価値を判断するには従来の収益性や財務状況だけでは不十分でこれらESGの観点が必須との考えで、世界的な経営の潮流となっています。
日本の取り組み動向
経済産業省は昨年より、国内大手企業や投資企業からなるSDGs経営/ESG投資研究会を開いています。研究会の目的は、「本研究会においては、国内外のSDGs経営の成功事例に焦点を当てつつ、如何にして企業がSDGsを経営に取り込んでいくか、また、投資家はどういった観点からそういった取組を評価するのか等について議論を深める。これにより、企業が持続的に企業価値を向上させ、そのような企業への投資が中長期的に収益を生み出す循環をさらに後押ししていく。また、日本が議長を務める来年のG20等も見据えつつ、本研究会の成果を国際的に発信していくことも目指す。」とあります。
SDGsへの積極的な取り組みは投資家の支持を得る絶対条件であり、冒頭のカップヌードルの件や先日はユニクロと東レがペットボトルをリサイクルしたポリエステル繊維の衣類を投入するニュースもありました。消費者への直接の利益は見えにくいですがこのような背景を知るとなるほどとすっきり腑に落ちます。
生分解性プラスチックとは?
最後に注目されている生分解性プラスチックについて記しておきます。バイオマスプラスチックや植物性由来プラスチックというワードはよく耳にすると思います。これらは海洋汚染問題がクローズアップされる以前から、多くの種類が開発され市場に出ています。身近なところでは家庭用ラップの刃に使われていたりします。
主にCo2削減を目的に開発され植物由来成分を含むと強調されることが多いようですが石油由来樹脂を含んでいることが多く、詳しくは別に譲りますが海洋汚染/マイクロプラスチック対策材とは目的が少し違っています。”生分解性”は、「微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」と定義され、最終的に水と二酸化炭素に分解されます。そのため国内では”生分解性プラ”はマイクロプラスチック対策の切り札的な扱いや記事を見ることがあります。その一方で、現時点で下記のような事項や懸念があることを意識しておくことが必要と思います。
- コスト:流通量が少なく材料費や加工性などの影響により割高
- 耐久性、機能性:分子結合が弱く使用中の劣化や変質の可能性、リユース不向き
- 分解性:分解時間や温度などの条件、長期間におよぶ海中でのマイクロプラスチック化、 土壌への影響が曖昧不明
- 分別・リサイクル:従来プラとの区別がつきづらく、現行リサイクルへの悪影響
- 食料との取合い:トウモロコシなど耕作地の食材用量不足や価格高騰
- モラル低下:いずれは分解するからとの認識から起こるポイ捨てなど
- 各国の規制や規則:北米カリフォルニア”生分解性”の表示禁止やEUの酸化型生分解性プラは廃止化など 各国により生分解プラへの扱いが異なっている
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